「かゆいところはありませんか」

 マニュアルと呼ぶほどではないけど、当社にもおおまかな接客フローみたいのがあって、「このあたりで一度、お客様に、何かお困りのことはないか、と聞くように」という決め事がある。先月、接客担当者と話しをしたところ、このステップを省略したい(と言うか、している)という。一声聞けばいいだけなのだから、さほど負担でもないと思うのだけど、彼曰く「毎回お客様に聞いてみても何かある人はほとんどいないので、わざわざ聞くのがむだに感じられる。そもそも何か質問や困ったことがある場合は向こうから言ってくる」と。

 しかし、そもそも接客フローにこれを足したのは、昨年、お客様にアンケートをとってみたところ「何も聞いてくれなかった」、「質問があるか声をかけてくれなかった」といった回答が二、三あったためだ。向こうから言ってくるのを待つのではなく、こちらから水を向ける形にすることが要点だった。

 一部のかたが不満に感じているのは、たとえば「困ったことがあったのに聞いてくれなかった」ことではなく「困ったことがあるか、と聞いてくれなかった」ことにある。なので「何かありますか?」とたずねて、「何もないです」と答えてもらえば、それはむだな1ステップなんかではなく、そこで満足が1つ得られる人も確実にいるわけだ。

 そう考えると、理髪店でのナゾの質問とよくいわれる「どこかかゆいところはございませんか?」も同じ役割を果たしているのかもしれない。何をたずねるのかは実はどうでもよくて、お伺いを立てること自体が重要なのでしょう。

 苦情や不満にも似たところがあって、苦情や不満を言ったり書いたりする窓口がないことが苦情や不満のモトになったりする。「苦情や不満を伝える方法が用意されている」のを見せることで、顧客の苦情や不満が1つ減るのであれば、それは実にいい手立てだと思うのです。