『英国王のスピーチ』

 私は吃音ではないが、二十代半ばに神経症を患ってから、人前ではひどい緊張で話せなくなっている。そんなわけで『英国王のスピーチ』のバーティことジョージ6世のことは他人事とも思えなかったのだけど、彼は吃音であっても、人前に立つのが不安や恐怖で身がすくむというのではないらしい。

 療法士のローグは、吃音には心理的な原因があると言って、最初は打ち解けたがらないバーティの過去・記憶を掘り返してゆく。私は最初、ローグがずっとこういった心理的なカウンセリングで、原因となっているわだかまりをほぐして治すのかと期待していたのだけど、実際には地道に話す訓練をくりかえす場面が描かれている。

 自分の神経症のはじまりは閉所恐怖症で、電車や車に乗るのに強い恐怖を感じるようになった。でも交通機関は日々使う機会があるので慣れてきて、徐々に症状は軽快した。同じように人前で話すのも機会を多く持たないとよくならない、と医者には言われている。障碍になっている岩を、薬やカウンセリングで溶かせるというわけではなくて、やはりバーティのように訓練と実践を繰り返していかないとだめらしい。

 ところで、この劇中にヒトラーが演説している実際のニュース映像が使われているのだけど、できればここも俳優で再現したほうがよかったように思う。この映画はドキュメンタリーではなくて、史実に基づいてはいてもフィクションなのだし。ヒトラーナチスは、歴史的にはわかりやすいヴィラン(悪役)にならざるを得ないのだけども、ヒトラーナチス関係者にも家族がいて、いまも親族は生きていることへの配慮はあってもいいんじゃないかなと。

 最後に、エリザベス妃を演じた、ヘレナ・ボナム・カーターはほんとにハマリ役でした。