『いちから聞きたい放射線のほんとう』

 書名はかねてツイッターでよく目にしてはいました。購入に至った動機は、件の「福島の鼻血」の真偽が話題になったときに、実家で親が「放射線の影響で鼻血はあるのかもしれない」と言っていたのを聞いて、その疑念への回答になるかもと思ったから。

 読後感をまず言えば、私が期待したほどは「わかりやすく」はなかったです。書名の「いちから」や「ほんとう」あたりの「ひらがな」からも、もっと違った手ほどき的な印象があったかもしれません。

  良くも悪くも内容は「真摯」、「誠実」といったところ。よく言われるような「科学的に考えれば断言はできない」といった姿勢なのかと思いますが、そのぶん言葉の力というのは弱くなって、結局、人の不安につけ込んだデマや、あるいは安心したいという願望に都合のよい「わかりやすい話」、「明確な言い切り」への対抗にはこころもとない。

 難しいものは難しくしか説明できない。複雑なことを、わかりやすくと割り切りで丸めてしまえば、それは本来の形ではなく、わかった気にさせてくれるだけで、より深い理解のためには妨げになる。という主張を聞くことがあります。それが誠実な態度だとは思います。さりとて本書の序盤を占める、分子や原子の仕組みや構造の解説はいくぶん冗長で、どのあたりの知識レベルを読者層に想定しているのだろうかと疑問を感じた次第。

  終盤になって、著者の小峰氏が、郡山の実家を除染した話題が出てくるのですが(家の見取り図と、どの位置の線量が高かったなど)、構成としてはここを膨らませて本書の導入部に持ってきたほうがツカミがよかったのに。「実家がこんなふうに除染作業されました」、「線量がこれくらいだったのですが、だいじょうぶでしょうか」といった入りかたで興味を引いておいて、「じゃあ、"シーベルト"ってなんなのか、解説していきましょう」という流れにするとか。そういった読者への「おもてなし」を考慮すれば、より読みやすくなった部分もありそう。また、おかざき真里氏のイラストは、抽象的な「挿絵」がほとんどで、前述の原子模型などの解説的な図解には使われてないのが残念。レイアウトなど(行間や、話者のアイコン)もいまいち読みづらくて、デザイン部分も不満が残りました。

 私が期待していたのは『経済ってそういうことだったのか会議』ならぬ、『放射線ってそういうことだったのか会議』だったのだと思います。こちらは、竹中平蔵氏と佐藤雅彦氏の対談(経済学講義)で、学術的にどの程度正確かはともかく、素人が読んで非常に楽しく経済を理解できる内容になっています。

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)