『サカサマのパテマ』

 『天空の城ラピュタ』を思わせる、いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」のSFファンタジー。エイジの父親が、空を飛ぶ機会を作っていたというあたりも似通っています。(それにしても、このテの「少年・少女主人公は両親を早く亡くしている」という設定はどうにも避けようのない定石なんでしょうか)

 予告映像を観たときには、「サカサマ」になっている状況がよくわからなかったのだけど、主役のパテマとエイジとは、それぞれが生きている世界の「重力の方向」そのものが正反対(と書いたところでわかりにくいが)。人だけではなく、それぞれの世界の物質には、服や食べ物などもすべて、その世界の重力が作用しているというわけ。このワンアイデアだけでも視覚的には意外とおもしろく、パテマとエイジ、それぞれの視点に入れ替わるときに、上下がくるっと反転するところもけっこうわくわくしました。どっちに重力がかかっているのか、二人の持ち物の重力方向も違うわけで、かなり混乱はします。

 尺が足りないのか、登場人物の掘り下げが浅いのは残念。パテマとエイジも出会ってすぐ親しくなるより、何か打ち解けるきっかけになる小さなエピソードを入れればよかったのではないかと。このへんはむしろ回想のエイジの父とラゴス(パテマと同じサカサマ人)の交流のほうがしっかり描けていたりします。登場人物をもうちょっと絞ってもよかったかもしれません。エイジに好意を持っているクラスメートの女の子も、一応いるだけという描き方なので省いてもよさそう。

 緩急の足りない演出も惜しまれるところ。お互いの重力方向が反対であることを利用して、パテマとエイジが手をつないで浮遊するのは前半の見せ場だと思うんですが、疾走感や爽快感がいまいち。塔の屋上に追いつめられ、警官隊に囲まれる場面も緊迫感がなかったり、と演出力に不足。

 それでも最後の種明かしは、私にはまったく読めてなかったので、お見事と言いたくなりました。勘のいい人なら、この世界の秘密を途中で予想できてしまうかもしれませんが。