『キング・コング』(2005年版)

 近年観たなかでは最も悪趣味な映画でした。1933年版のリメイクだそうで、自分が小学生のころTV放映で観た『キングコング』(これは1976年版とのこと)が念頭にあったので、違いに驚きました。

 76年版は、時代設定を現代にしているせいか、自然保護や動物愛護的な視点が、現在のそれと比較的近いです。孤島に棲息していた珍種の大猿を捕獲して、都市で見世物にしようとしたものの、暴れだして手がつけられなくなったので銃殺してしまう、という大筋はどちらも同じものの、「近代文明の傲慢」を明確に描いているのは76年版でしょう。コングもずっと知的で、人間の女性と心を通わせる描写も丁寧(ジェシカ・ラングを滝浴びさせる場面は秀逸)で、観る者はコングに感情移入します。コングが高層ビルに登るのも、故郷の岩山を思い出して、という心理描写があり、またビルから落下した後もまだ意識があって、自分を取り囲んでいる人間たちを見つめていたりするところも印象的。

 一方、05年版はコングも銃で何発撃たれてもこたえない化け物のようだし、機銃を浴びても血も出ません(流血はレーティングの関係かもしれないが)。いくらオリジナルを基にしてるとはいえ、現代的にどうかと思う描写も多々あり。特に原住民なんかはおぞましいゾンビのようで、いくら架空の民族だとしてもこんな描き方をしていいのかと。

 3時間のうち2時間以上が、コングの住むドクロ島での場面に当てられ、そこに棲息する恐竜や巨大昆虫が動き回る「CGショー」です。このへんは「特撮ショー」だったオリジナルと同じ位置づけでしょう。

 ヒロインを演じたナオミ・ワッツはたいへん魅力的なのですが、それ以外はとても残念な作品になりました。